福岡高等裁判所 昭和42年(行コ)6号 判決 1968年2月28日
控訴人(被告) 大分税務署長
訴訟代理人 島村芳見 外三名
被控訴人(原告) 山豊証券株式会社
主文
本件控訴を棄却する。
訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人らは「原判決を取り消す。被控訴人の各請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代表者は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張と立証は、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。但し、原判決八枚目裏七行(注、本書三二五ページ一二行)「昭和三四年一一月三一日」とあるは「昭和三四年一一月一三日」と訂正する。
理由
当裁判所も、原判決の判断を相当と認める。そして、その理由は原判決理由説示のとおりであるから左記の附加、訂正及び補足をなすほかすべてこれを引用する。
原判決一四枚目表六行(同上三二九ページ一行)「(最高裁昭38・5・32」とあるは「(最高裁昭38・5・31」と訂正し、一七枚目裏九行(同上三三一ページ一行)「しかし」の次に「更正の理由附記は、その理由を納税義務者が推知できると否とにかかわりのない問題であるばかりでなく」を附加する。
本件における主たる争点は、熊本国税局長のなした本件各裁決通知書に附記された理由により、控訴人がなした原処分たる本件各更正処分の附記理由不備の違法が治癒されるかどうかということである。ところで、法人税法三二条(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの)により本件各更正処分に「理由を附記せしめることは単に相手方納税義務者に更正の理由を示すために止まらず、漫然たる更正のないよう更正の妥当公正を担保する趣旨をも含むもの」(最高裁昭和三八年一二月一七日判決)であるから、かかる場合の附記理由は、その保障的機能に鑑み、当該更正処分自体につきその具体的根拠を示した独立自足的なものであることを必要とするのであつて、右更正通知書に附記理由の不備があつても、後に審査裁決によつてこれを補正追完することにより、前者の瑕疵は治癒されるというが如き性質のものではないと解するのが相当である。けだし、若し控訴人主張のように原処分庁における更正処分の附記理由に欠缺ないし不備があつても、それは裁決庁における裁決に十分なる理由が附記されることによつて代替され、前者に存した瑕疵は常に治癒するものであるとするならば、行政庁としては、相手方納税義務者に対し不服審査の申立をまつてその最終的な裁決段階で原処分の理由を附記することによつてこれを示せば足りるということになる。しかし、それでは一面において納税義務者の権利が侵害されるおそれがあるばかりでなく、他面、原処分庁の税務行政はそれだけ安易に流れることなきを保しがたいからである。そして、そういうことになると、原処分自体につき附記理由を要求する前示法条は、せいぜい単なる訓示規定としての意義しかもち得ず、事実上空文化することをすら解釈上容認する結果ともなる。かかる事態は法の所期しないところであるというべく、控訴人の主張は採用しがたいものといわなければならない。
そうすると、原判決は相当であつて本件控訴はその理由がないからこれを棄却することとし、民訴法三八四条、八九条、九五条により主文のとおり判決する。
(裁判官 原田一隆 入江啓七郎 安部剛)